バートラム家の若者たちとクロフォード兄妹は、初めからお互いに好感を持った。それぞれ相手には魅力的なところがあったので、礼儀にかなった範囲で、すぐに親しいお付き合いができるだろうと思えた。ミス・クロフォードの美しさはマライアとジュリアの脅威にはならなかった。二人は相当な美人だったので、ほかの女性の美しさに嫉妬する必要がなかったからだ。トムとエドマンドも、ミス・クロフォードを素敵な女性だと思った。彼女はいきいきとした黒い目をしていて、やや褐色の澄き通った肌で、誰が見ても可愛らしかった。もしミス・クロフォードが長身で体つきも良く、色白の金髪だったならば、マライアたちにとって厄介なことになっていただろうが、実際は美しさのタイプが全然違うので、比較しようもなかった。というわけでミス・クロフォードは愛らしく可憐なお嬢さんだと認められた一方、バートラム姉妹はこの地方一の美人のままだった。
兄のヘンリー・クロフォードはハンサムではなかった。いや、それどころかみんな初めて彼に会ったときは本当に不細工だと思ったし、肌も浅黒い醜男だと思った。だがそれでも紳士然とはしており、気持ちの良い話しぶりだった。二回目に会った時は、そんなに醜男だとは思わなかった。たしかに醜男ではあるのだが、悠々と落ち着いた物腰の持ち主で、歯並びも綺麗だし、体つきもがっしりしているので、みんなすぐに彼が醜男だということを忘れてしまうのだ。そして三回目に牧師館のディナーで会ったときは、だれも彼のことを醜男だとは言わなくなった。それどころか、マライアとジュリアは「今まで見た男性のなかで、いちばん感じの良い人だわ」と思い、二人とも彼のことを気に入った。ミス・バートラム[※マライアのこと。長女なので姓のみで呼ばれる]は婚約しているので、当然クロフォード氏はジュリアのものになり、ジュリア自身もそれをよく承知していた。そしてクロフォード氏がマンスフィールド・パークに滞在して一週間も経たないうちに、ジュリアは彼と恋に落ちる気満々であった。
この件に対するマライアの気持ちはもっと複雑であいまいだったが、自分でもその気持ちをはっきりさせたいとは思わなかった。
「好感の持てる人を好きになったって、別に悪いことなんかないわ──みんなわたしが婚約してることを知ってるんだし──クロフォードさんのほうが自分で気をつければいいのよ」
当のクロフォード氏は自分の身を危険に晒すつもりはまったくなかった。だがバートラム姉妹は喜ばせるだけの価値があるし、相手のほうでもそれを期待しているらしいので、自分を好きにさせてみようという下心だけでこの交際を始めたのだった。別に焦がれ死ぬほど好きになってもらいたい訳ではないが、自分のほうでも分別と冷静さを失わなければ、かなりの行動の自由が許されるだろうと彼は思っていた。
「姉上、ぼくはバートラム姉妹をすっかり気に入りましたよ」牧師館でのディナーのあと、ヘンリー・クロフォードは姉妹たちを馬車まで見送るとこう言った。「とてもエレガントで感じの良いお嬢さんたちですね」
「そうね、本当に。そう言ってくれて嬉しいわ。でもあなたはジュリアさんがいちばん気に入ったでしょう?」
「おお! そうですね、ジュリアさんがいちばん気に入りました」
「でも、本当? 世間ではミス・バートラムのほうが美人だと思われてるようだけど」
「たしかにそうですね。どの点からしてもミス・バートラムのほうが優れているし、顔は彼女のほうが好みです──でもぼくはジュリアさんのほうが好きです。ミス・バートラムはたしかに誰よりも綺麗だし、すごく感じが良い方だと思ったけど、でもジュリアさんがいちばんのお気に入りです。だって姉上の命令ですからね」
「もうあなたとは口をきかないわ、ヘンリー。でもきっと最後にはジュリアさんのほうを好きになるわ」
「ジュリアさんのほうが好きだと、ぼくは最初から言っているじゃありませんか?」
「それにね、ミス・バートラムは婚約しているのよ。そのことを忘れてはいけませんよ、ヘンリー。決まったお相手がいるんだから」
「ええ、だからなおさらいいんです。婚約している女性はいつだって、婚約してない女性より魅力的なんです。婚約している女性は自分に満足していますからね。気苦労から解放されて、思う存分愛想を振りまけますし、相手のことが好きなのではないかと余計な疑念を持たれずに済みますからね。婚約すれば女性はまったく安全ですよ。心配ご無用です」
「まあそうね──ラッシュワースさんはとても好青年だし、ミス・バートラムにはぴったりの結婚相手よ」
「でもミス・バートラムはこれっぽっちも彼に気がない、というのが姉上の意見なのですね。ぼくはそれには賛同できません。まちがいなく、ミス・バートラムはラッシュワース氏に首ったけです。彼のことが話題になっているときの、彼女の目を見れば分かります。ぼくはミス・バートラムのことは知りすぎるくらい知っていますから、彼女が愛のない結婚をするような女性とは思えません」
「メアリー、この人をどうすればいいの?」
「放っておけばいいと思うわ。話したってムダですもの。最後にはお兄さまが痛い目を見るのよ」
「でもわたしは、ヘンリーが痛い目にあってほしくないわ。だまされるところを見たくないもの。正々堂々、立派にやってもらいたいわ」
「あら!──ヘンリーお兄さまなんか、成り行きにまかせてだまされちゃえばいいのよ。それも結構じゃないの。みんないつかはだまされるんだから」
「結婚ではそうとは限らないわ、メアリー」
「結婚では特にそうよ。すでに結婚している方の前で言うのはたいへん失礼ですけど、でもねグラント夫人、男性でも女性でも、結婚するときにだまされていない人なんて百人に一人もいないと思うわ。どこを見てもそうよ。そうならざるを得ないのよ。あらゆる取引のなかでも、結婚ほど相手に多くのことを期待しながら、自分の正直な姿を隠しておくものってないわ」
「まあ! 結婚について、ヒル・ストリート1で提督から悪い教育を受けたのね」
「たしかに気の毒な叔母さまは、結婚生活を愛する理由はほとんどなかったわね。でもわたしの観察からしても、結婚って人をあざむく策略よ。わたしはいくつもそんな例を知ってるわ。みんな何かしらの利益を得ようとしたり、相手にすぐれた教養や美点があると信じて結婚するんだけど、そういう期待や信頼は裏切られて、自分はすっかりだまされていたと気付くのよ。そしてまるで正反対の結婚生活に耐えなきゃいけないのよ! これが詐欺じゃなかったら、なんだっていうの?」
「メアリー、こういう問題を考えるときには少し想像力が必要よ。申し訳ないけど、あなたの言うことを信じるわけにはいかないわ。あなたは物事の半分しか見ていないわね。結婚の悪い面だけ見て、良い面を見逃しているわ。どんなことでも多少の不満や失望はあるでしょうし、わたしたちは相手に多くを期待しがちなの。でもね、もし幸せになるための当てが外れたとしても、人間は別の物に目を向けられるわ。もし最初の見通しが誤っていたとしても、次の見通しは上手くいくようつとめるのよ。どこかしらに慰めは見い出せるわ──でも悪意のある観察者というものはね、メアリー、なんでも大げさに言ったりするの。でもそういう人たちは当事者以上にかえってだまされやすいのよ」
「あっぱれね、お姉さま! 夫婦の絆に対するお姉さまの忠誠心には恐れ入ったわ。わたしも結婚したら、しっかりした奥さんになるつもりよ。わたしの友人もみんなそうなったらいいと思うわ。そうすればたくさん愚痴を聞かずに済むから」
「まあメアリー、あなたもヘンリー並みに悪い人ね。でもわたしたちが悪い所を直してあげましょう。マンスフィールドでの生活が、二人にとって良い薬になるわ──だまされるなんてこともありません。牧師館にいてちょうだい、そしたらわたしたちが悪い所を直してあげるわ」
クロフォード兄妹は別に悪い所を直してほしくはなかったが、喜んで滞在することにした。メアリーは牧師館を当面の自宅として気に入っていたから、ヘンリーも喜んで滞在を延ばした。彼はたった数日だけ牧師館で過ごす予定で来たのだが、マンスフィールドの社交界は見込みがありそうだし、ほかに予定もなかったのでしばらくここに残ることにした。グラント夫人は二人を引きとめることができて大喜びし、グラント博士のほうもたいそうご満悦だった。出不精で怠け者のグラント博士にとって、ミス・クロフォードのような若い女性と話すのはいつだって愉快だったうえに、クロフォード氏が客にいてくれれば、毎日赤ワインを飲む口実ができるのだ。
バートラム姉妹はますます熱狂的にクロフォード氏にのぼせ上がっていたが、それはミス・クロフォードの趣味にはちょっと合わないくらいだった。けれどもバートラム家の息子たちは非常に好青年だと彼女は思ったし、こんな素晴らしい青年二人がいっしょにいるところはロンドンでさえなかなかお目にかかれないくらいだと思った。二人の立ち居振る舞い──特に長男のトムのほう──もたいへん立派だった。トムはしょっちゅうロンドンで過ごしており、エドマンドより快活で女性に対する慇懃さも身につけていたから、好まれるのも無理はなかった。それにトムが長男であることは、もう一つの強力な魅力だった。長男なら、マンスフィールド・パークの地所や准男爵の地位を相続できるからだ。ミス・クロフォードは前々から「兄のバートラムさんのほうを好きになりそうだわ」という予感がしていた。長男を好きになることこそが、自分の選ぶべき道だと分かっていた。
トム・バートラムは少なくとも、愉快な人であることはちがいなかった。トムはみんなから好かれるタイプの青年だったし、彼の愛想の良さというのは、道徳心とか知性などの優れた特質よりもしばしば好感を持たれる類のものだった。彼は気さくで溌剌とした明るさがあり、広い交友関係のおかげで会話の話題も豊富だった。これらに加えて、マンスフィールド・パークと准男爵位の相続権まであるのだから申し分ない。ミス・クロフォードはすぐに、トム本人もその境遇も自分にふさわしいと思った。彼女はさまざまな熟慮を重ねたうえで、どれもこれもほとんど完璧だと感じた。マンスフィールド・パークの敷地は周囲5マイルはあるし2、広々とした現代的なお屋敷は立派な場所に立っていて、ほどよく樹木で周りを覆われている。これほどの建物なら、イギリスの大邸宅の銅版画集に載っていてもおかしくないだろう。ただし家具だけは新しくしなければならないが──姉妹たちは愛想がよく、母親は物静かで、トム本人も感じが良い──今のところサー・トマスとの約束でギャンブルも控えているようだし、いずれは未来の准男爵サー・トマスになるのだ。まさに自分にふさわしい結婚相手だ。ミス・クロフォードは、彼のプロポーズなら受け入れられそうだと感じた。したがって彼女は、トムがB―競馬会で走らせる予定の馬にもいくぶん興味を示すことにした。
クロフォード兄妹との交際が始まってまもなく、トムはこの競馬レースに出るために家を離れなければならなかった。家族の者たちも、トムのいつもの行動からして、どうせ数週間は帰ってこないだろうと思っているようだった。そのため、早くもミス・クロフォードに対する彼の愛情が試されることとなった。トムは競馬レースを見に来るよう彼女を誘ったり、みんなで出かける計画も立てたりしていたが、結局それは話だけで終わった。
ところで、ファニーはこの間どうしていたのだろう? 何を考えていたのだろう? 彼女はクロフォード兄妹のことをどう思っていたのだろうか? 18歳のお嬢さんの中で、ファニーほど意見が求められないお嬢さんもいないだろう。彼女は控えめな口調で──だれもほぼ聞いていなかったが──ミス・クロフォードの美しさを褒める言葉を口にしたことはあった。でも相変わらず兄のクロフォード氏の方はすごく不細工だと思っていたし、マライアとジュリアが「やっぱりクロフォードさんは素敵な紳士ね」と何度も彼のことを褒め称えていたにもかかわらず、ファニーは決してクロフォード氏の名前を口にすることはなかった。そのため、かえってミス・クロフォードの関心を引くこととなった。ミス・クロフォードは、トムとエドマンドと散歩しているときにこう言った。
「バートラム家の人たちのことは、だんだんみんな分かってきたわ。でもミス・プライスのことだけは分からないの。ねえ教えて下さいな、彼女は社交界に出ていらっしゃるの? それともまだですの?──全然分からないわ。──あなたたちといっしょに牧師館でディナーに出席していたのだから社交界デビューしてるように思えるけど、でもほとんど喋っていなかったから、それはデビュー前のお嬢さんのようにも思えるし。さっぱり見当もつかないわ」
エドマンドが主に話しかけられた相手だったので、こう答えた。
「あなたがどういうことを言っているのか分かりますよ──でもぼくはその質問には答えられそうにありません。ファニーはもう大人です。年齢の点でも分別の点でも、立派に一人前の女性です。でも社交界デビューしているかしていないかについては、ぼくには分かりません」
「でもたいていの場合は、もっと簡単に判断できますわ。社交界デビューしてるかしてないかなんて一目瞭然ですもの。ふつう、態度も服装も全然違いますし。いままで、社交界に出ているお嬢さんと出ていないお嬢さんを見間違えることがあるなんて思ってもみなかったわ。社交界に出ていないお嬢さんはいつだって同じような服装をしていますから。そういうお嬢さんって、例えばボンネットを目深にかぶって、とってもおとなしくて、一言も喋らないのよ。あなたはお笑いになるでしょうけど──でも本当にそうなんですから──たまに少しやりすぎなこともあるけど、それはそれで全くふさわしい振る舞いだと思うわ。女の子は物静かに慎ましくしていなきゃ。でもいちばん不愉快なことは、よくあることだけれど、社交界デビューしたとたん急に態度が変わりすぎてしまうことね。ああいうお嬢さんたちは、控えめで奥ゆかしい態度からその正反対──自信たっぷりの厚かましい態度に、一気に豹変してしまうのよ! それこそが今の社交界デビュー制度の欠陥ね。18,19のお嬢さんがそんなにもすぐわが物顔で振る舞うのなんて、だれも見たくないわ──そのお嬢さんが一年前には口を開くことすらできなかったのを見ていたら余計にね。ねえバートラムさん3、あなたならそんなふうにガラリと変わってしまったお嬢さんをご覧になったことがあるでしょ?」
「ええ、ありますとも。でもこういう質問の仕方はフェアじゃないな。あなたの言わんとしてることは分かりますよ。ぼくとミス・アンダーソンのことをからかっているんでしょう」
「いいえ、ちがいますわ。ミス・アンダーソンですって! どなたかも存じませんし、何のことかさっぱり分かりません。でもどういうことか教えて下さるなら、喜んでからかってさしあげますわ」
「おや! うまく切り抜けましたね。でもぼくはだまされませんよ。あなたは、態度が一変してしまったお嬢さんのことを説明しているとき、きっとミス・アンダーソンのことを思い浮かべていたんでしょう。あんな正確に説明していたんだから、間違いない。まさにあなたの言うとおりです。ベイカー・ストリートのアンダーソン家のことだ。ぼくらは先日、あの一家のことを話していたんですよ。なあエドマンド、このあいだチャールズ・アンダーソンのことを話しただろ。ミス・クロフォードの説明に状況もぴったり一致してる。二年くらい前にアンダーソンがぼくを初めて彼の家族に紹介したとき、妹のミス・アンダーソンはまだ社交界に出ていなかった。だからぼくは、彼女とお喋りすることができなかったんだ。ある朝、ぼくが一時間ほど座ってアンダーソンのやつを待っていると、部屋には妹のミス・アンダーソンと小さな女の子が一人か二人いたんだが──家庭教師はそのとき病気か何かで不在だったし、母親のほうは商用の手紙でひっきりなしに部屋を出たり入ったりしていたんだ。ところがミス・アンダーソンはぼくと一言も話さず、目も合わしてくれなかったよ──丁重な受け答えすら一切なしで──口をぎゅっとつぐんで、お高くとまってそっぽを向いてたんだ! それから一年は会わなかったけれど、その後彼女は社交界デビューした。ホルフォード夫人邸でぼくは彼女と再会したが──まさかミス・アンダーソンとは気付かなかったよ。彼女はぼくに近づいてきて、ぼくと知り合いだと言って、こっちがきまり悪くなるくらいじっと見つめてきたんだ。そうやってぺちゃくちゃ話したり、げらげら笑ったりするもんだから、ぼくはどっちを向いていればいいのか分からないほどだったよ。
そのときぼくは、自分が部屋中の笑いものになってると感じたね──だからミス・クロフォード、あなたがこの話をだれかから聞いていたことは明らかだ」
「とっても面白いお話ですわね。ミス・アンダーソンの名誉にはなりませんけど、まさに真実以上のお話だわ。よくある失敗ですわね。世の母親たちは娘の正しい扱い方を心得ていないのね。どうしてこんな間違いを犯すのかしら。わたし、世間の人々を正そうというつもりはありませんけど、でもみなさんしょっちゅう間違えているというのは分かるわ」
「淑女としてのマナーを世間に示している女性は、それだけで十分人々を正しい方向に導いているのですよ」とトムは慇懃に言った。
「どこが間違っているかは、はっきりしてますよ」あまり慇懃でないエドマンドはこう言った。「そういうお嬢さんたちは間違った教育を受けているんです。初めから誤った考えを植え付けられているんですよ。そういう女性たちはいつも虚栄心に駆られて行動している──社交界デビューする前も後も、その振る舞いには本当の意味での慎ましさなんかないんだ」
「それはどうかしら」ミス・クロフォードはややためらいがちに答えた。「その点ではあなたに同意できないわ。心のなかで虚栄心を持つことなんて慎み深いほうよ、まだかわいいものだわ。それより、社交界に出てないお嬢さんが、すでに社交界に出てるお嬢さんと同じ態度を取ったり、自由きままな振る舞いをすることのほうがずっと酷いわ。わたしもそういう例を見たことがありますけど。それこそ最悪よ──すごく不愉快だわ!」
「そうですね、本当に迷惑極まりない」とトムは言った。「そういった振る舞いは人を迷わせますからね。どうすればいいのか分かりゃしない。深くかぶったボンネットとか控えめな態度というものを、あなたは見事に表現していましたが(それにきわめて適切な表現です)、そういったもののおかげで見分けがつくんです。でもぼくは去年、そういう目印がないおかげでひどい目に遭いましたよ。ぼくは去年の9月に、友人と一週間ほどラムズゲートに行ったんです──
西インド諸島から戻ってきてすぐの頃かな──友人のスニードとね──スニードのことは話したよな、エドマンド。彼の両親や妹たちもいっしょだったが、全員ぼくとは初対面だったんだ。ぼくとスニードがアルビオン・プレイスという宿に着くと、ご両親と妹たちは散歩に出ていた。そこでぼくらがあとを追うと、みんなが桟橋にいるのを見つけた。
母親のスニード夫人と二人のお嬢さんのほかにも知り合いの人たちがいて、ぼくは型通りのお辞儀をした。スニード夫人はほかの男性たちに囲まれていたから、ぼくはスニード姉妹の片方に付き添うことになり、宿に帰る道中ずっとそばで並んで歩いていたんだ。なるべく愛想よくしようとつとめたよ。そしたら彼女もすっかり打ちとけた様子で、喜んで話も聞くしおしゃべりもするという態度だったんだ。ぼくはまさか自分が悪いことをしているなんて微塵も思わなかったね。スニード姉妹は二人ともまったく同じように見えたんだよ。二人とも着飾っていたし、ほかの女性たちのように顔をヴェールで覆って日傘を差してた。だけどそのあと分かったんだが、ぼくはずっと妹のほうのお相手をしていたんだ。彼女はまだ社交界に出ていなかった。それでお姉さんのほうをかなり怒らせてしまってね。妹のミス・オーガスタは社交界デビューするまであと半年はあったから、それまで彼女のお相手をしちゃいけなかったのさ。ミス・スニードはきっと、ぼくのことを絶対許さないだろうね」
「それはたいへんまずかったですわね。かわいそうなミス・スニード! わたしには妹はいませんけど、ミス・スニードには同情しますわ。お姉さんなのにそんなふうに無視されるなんて、とっても腹立たしかったでしょうね。でもこれは完全に母親の責任だわ。ミス・オーガスタは家庭教師といっしょにいるべきだったのよ。そういうどっちつかずの振る舞いは決してうまくいかないわ。それはそうと、ミス・プライスのことを知りたいわ。ミス・プライスは舞踏会には行きますの? 牧師館だけでなく、ほかのお宅のディナーにも出席しておりまして?」
「いいえ」とエドマンドは答えた。「ファニーはいままで舞踏会に出たことはないと思います。うちの母はほとんどパーティーには行きませんし、それに牧師館以外でディナーに出かけることもほぼありません。だからファニーは、母とずっと家で過ごしてるんです」
「あら! それじゃはっきりしてるわ。ミス・プライスは、社交界デビューしていないのね」