舞台はナポレオン戦争期の1814年、イギリス南西部。
ケリンチ・ホールの当主である准男爵サー・ウォルター・エリオットは、外見と地位にばかりこだわっている虚栄心の強い人物である。14年前に亡くなった妻との間には3人の娘がおり、長女エリザベス(29歳)、次女アン(27歳)、三女メアリー(23歳)である。エリザベスとアンは未婚だが、メアリーはケリンチ・ホールからすぐ近くに住む裕福な田舎地主の跡取り息子チャールズ・マスグローヴと結婚していた。
サー・ウォルターとエリザベスは浪費家で、贅沢な生活習慣がたたって借金がかさんでしまい、とうとうエリオット家はケリンチ・ホールを貸し出してバースに移り住まねばならなくなった。だがまもなく、海軍軍人のクロフト提督夫妻という素晴らしい借り手が見つかり、近々ケリンチ・ホールに移り住んでくることになった。次女アンは、その知らせに心かき乱される。というのもアンは8年前、海軍士官のフレデリック・ウェントワースという青年と婚約解消した過去があるのだが、なんとクロフト提督夫人はそのウェントワース大佐の姉なのだ。当時アンとウェントワースは相思相愛の仲だったものの、アンの母親代わりの助言者であるラッセル夫人の説得により、アンから婚約破棄していた。ラッセル夫人は、ウェントワースの将来と財産の無さを懸念していたのである。ウェントワースは傷つき、アンに恨みを抱いたまま海上勤務に出た。その後もアンはウェントワース以上の男性には出会えず、婚期を逃しつつあった。
サー・ウォルターとエリザベスとクレイ夫人(エリオット家の弁護士クレイ氏の娘で寡婦。弁護士の娘なので地位は低い)はバースへと発ったが、アンだけは妹メアリーの求めに従い、妹夫妻の住むアパークロス・コテッジに二カ月ほど身を寄せる。本家のアパークロスのマスグローヴ家には年頃の娘が2人いて、長女はヘンリエッタ、次女はルイーザである。ケリンチ・ホールとアパークロスはすぐ近くなので、やがてクロフト提督夫妻とともにウェントワース大佐もアパークロスへ訪れるようになり、マスグローヴ家の人たちとの親しい交際が始まった。
ウェントワース大佐と8年ぶりに再会したアンは、不安を覚えながらも対面するが、慇懃で堅苦しく他人行儀な彼の態度にショックを受ける(当然ではあるが…)。ウェントワース大佐はアンと別れた後、すぐに海軍で戦功をあげて一躍昇進し、今ではかなりの地位と財産もある颯爽とした青年となっていた。ウェントワース大佐は未だ独身であり、「人の言いなりにならない断固とした意志の女性」を求めていた。マスグローヴ家のお嬢さまのヘンリエッタとルイーザはたちまち大佐に熱を上げる。だがヘンリエッタにはチャールズ・ヘイターという許嫁のような関係の相手がいるので、周囲からは「大佐はルイーザと結ばれるのではないか」と目されていた。
だがウェントワース大佐も、アンに対する愛情が完全に冷めていた訳ではなかった。彼もその後アンほどの女性には出会っていなかった。ただ彼女が他人の言いなりになって自分を見捨てたその性格の弱さと臆病さが、自信家である彼にはどうしても許せなかったのだ。大佐のアンに対する態度は依然として冷淡でよそよそしかったものの、時としてさりげない気遣いを見せることもあった。その度にアンは心の中で一喜一憂してしまうのだった。
ある時、ウェントワース大佐の提案で、友人のハーヴィル大佐宅を訪問がてらライム・リージスへ小旅行に行くことになった。一行がライム・リージスの風光明媚な海沿いの散歩道を歩いている途中、立派な身なりをした謎の紳士とすれ違う。その紳士は、爽やかな海風に当たっていつになく顔色が良くなったアンの容姿に明らかに目を奪われているようだった。
その様子にウェントワース大佐もめざとく気が付く。後になって、実はその紳士はアンの親戚であり、将来ケリンチ・ホールと准男爵位を受け継ぐことになっているウィリアム・エリオット氏だと判明した。ハーヴィル大佐宅にはべニック大佐という居候の友人もいた。彼はハーヴィル大佐の妹と婚約していたが、その妹が死去してしまいべニック大佐は傷心していた。アンは詩や文学を愛好する彼と意気投合し、周囲の人たちもそれに気付く。
ライム・リージスの海岸を散歩中、ルイ―ザはウェントワース大佐に手を貸してもらいながら遊び半分で突堤を飛び降りていたのだが、大佐が「ここは下が硬いし危ないからやめたほうがいい」と言うのも聞かず、「私はもう決心したの」と言って高所から飛び降りた際に転倒し、頭を打って気絶してしまう。まさかルイ―ザは死んでしまったのではないかと一同はパニックになるが、アンだけは冷静に皆に指示を出し、その場を取り仕切る。大佐はアンに感謝し、彼女のしっかりとした判断力や性格にあらためて心惹かれるようになる。ルイ―ザは幸い命に別条はなかったものの、しばらくハーヴィル大佐宅で看病を受けることとなった。
その後、アンはラッセル夫人と一緒にバースへ向かった。父と姉は高級住宅街カムデン・プレイスに居を定めていたが、意外なことにライム・リージスで出会ったあのエリオット氏が一家の常連客になっていた。エリオット氏は、あの時海岸ですれ違った女性がエリオット家の次女だと分かると喜びを隠さず、事あるごとにアンに心遣いを示し始めた。
エリオット氏はかつてサー・ウォルターたちとの交際を拒否していた過去があり、しばらく絶縁状態になっていた。やがてエリオット氏は手っ取り早く金銭的独立を得るために、金持ちだが身分の低い女性と結婚したものの、最近になってその妻が亡くなり金だけが残ったので、准男爵の地位とケリンチ・ホールに急に未練が出てきた。万が一サー・ウォルターとクレイ夫人が再婚し、跡取り息子が生まれるようなことにでもなれば、相続人としての自分の地位が危うくなる。彼がエリオット家と関係修復を願って再び近づいてきたのはそんな事態を防ぐためだったのだが、一方でアンへの関心はどうやら本物のようであった。
その頃ウェントワース大佐もバースを訪れていて、アンと再会した。大佐の話題の選び方や言葉遣い、態度、表情のすべてが、かつての好意と優しさがよみがえってきたことを物語っていた。だがエリオット氏も何かとアンに心遣いを見せており、それを目撃したウェントワース大佐は明らかに動揺し嫉妬しているようで、ついにはバースを離れることにするという。思いがけず大佐にエリオット氏との仲を勘違いされてしまい、自分の本心を伝えられずもどかしく焦るアンだったが、意外な方面からエリオット氏の正体を知らされることとなり……