『マンスフィールド・パーク』は1814年の出版後、初版は完売したものの、書評が出なかったため、オースティンは自分で家族や知り合いの人たちの感想を集めてまとめていました。
この記事ではその感想を全訳してご紹介します。
(原文はこちらのサイトから→Pemberley.com “Opinions of Mansfield Park”)
※注意!この先は『マンスフィールド・パーク』の結末についての重大な言及があります。結末を知ってしまうと作品への興味が著しく損なわれてしまうため、既読の方のみ読み進めるようお願いします。
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フランシス・オースティン[五兄]
「全体としてみれば確かに、P&P[高慢と偏見]には及ばないだろう──しかし、ここには多くの優れた美しさがある。ファニーはなんて魅力的だろう!そしてノリス夫人はぼくの大のお気に入りだ。登場人物はみな自然で脇もよく固められている。会話の多くも見事だ。──この出版が、才能ある作者の評判を落とすと思われるのではないかと恐れる必要はない。」
エドワード・オースティン・ナイト[三兄]
「P&Pほど冴えてはいない──だが全体的には気に入った。ファニーの人物造形が好き。ポーツマスの場面は見事。」
エドワード&ジョージ・ナイト[甥]
「P&Pほど好きではない。エドワードはファニーを褒めたが、ジョージはファニーが嫌いとのこと。ジョージは、メアリー・クロフォード以外には誰にも興味が持てなかった。エドワードはヘンリー・Cがお気に入り。エドマンドは冷たくて堅苦しいので反感を持った。ヘンリー・Cがそんな時に(つまりファニーに首ったけになっている時に)R夫人[ラッシュワース夫人]と駆け落ちするのは、エドワードは不自然だと思ったとのこと。」
ファニー・ナイト[姪]
「多くの部分はかなり気に入った。ファニーが素晴らしい。でも結末には満足できなかった。ファニーとエドマンドの愛をもっと描いてほしかったし、エドマンドがメアリー・Cのような道徳心の欠如した女性をそんなにも愛するとは思えず、彼がファニーとヘンリーの結婚を応援するのも不自然だと思った。」
アナ・ルフロイ[姪]
「P&Pより好き。でもS&S[分別と多感]ほど好きではない。ファニーには我慢ならない。ノリス夫人、ポーツマスの場面、その他ユーモラスな部分は全部面白かった。」
ジェイムズ・オースティン夫人
「大いに気に入った。特にノリス夫人とポーツマスの場面が楽しめた。ヘンリー・クロフォードがラッシュワース夫人と駆け落ちするのはとても自然だと思った。」
ミス・ロイド
「他の2作品[P&PとS&S]より好き。ファニーが素晴らしかった。ノリス夫人は大嫌い。」
お母さま
「P&Pほど好きではなかった。ファニーは面白みがない。ノリス夫人は面白かった。」
カッサンドラ[姉]
「たいへん見事だと思った、でもP&Pほどキラキラ輝いてはいない。ファニーが気に入った。ラッシュワース氏のばかさ加減がとても面白かった。」
ジェイムズ・オースティン[長兄]
「全体的に熱心に褒める。ポーツマスの場面が愉快だった。」
ジェイムズ・エドワード・オースティン-リー[甥]
「お父さんの意見とほぼ同じ。ラッシュワース夫人の駆け落ちは不自然。」
ベンジャミン・ルフロイ氏
「ファニー・プライスが大のお気に入り。ポーツマスの場面を熱心に褒める。ファニーに対して恋に落ちないエドマンドに腹を立てている。ファニーをいじめるノリス夫人が大嫌い。」
ミス・バーデット
「P&Pほど好きじゃなかった。」
ジェームズ・ティルソン夫人
「P&Pより好きだった。」
ファニー・ケージ
「あんまり好きじゃなかった。P&Pとは比べ物にならない。登場人物たちに興味が持てなかったし、語彙も貧弱。登場人物自体は自然で、脇役もよく固められていた。読み進めていくとだんだん良くなった。」
クック夫妻
「すごく気に入った。特に牧師の扱われ方がよかった。クック氏によると、『今まで読んだ中で最も良識のある小説』である。クック夫人は、既婚婦人らしい品のある登場人物がいればよかった、とのこと。」
メアリー・クック
「両親と同じくらい気に入った。バートラム夫人の人物造形とラッシュワース氏の愚行が面白かった。全体的にファニーがすばらしい。でもファニーは、エドマンドがミス・クロフォードを愛していると分かったときに、もっと断固として自分の気持ちに打ち克つべきだと思った。」
ミス・ビュレル
「たいへんすばらしい。特にノリス夫人とグラント博士。」
ブラムストーン夫人
「かなり気に入った。特にファニーの人物造形がとても自然。バートラム夫人は自分に似ていると思った。他の二作品より好き。でもそれは自分に趣味が欠けているからかもしれない──機知が理解できないので。」
オーガスタ・ブラムストーン夫人
「S&Sのようだと思った。P&Pはまったくのナンセンスだと思っている。でもMPは好きになれそう。第一巻は読み終わった。一番ひどいところは過ぎたのではないかと思う。」
ディーンの一家
「みんな気に入っている。アナ・ハーウッドはノリス夫人と緑の舞台幕を面白がっていた。」
キンベリー[ファウル]の一家
「すごく面白かった。他の二作品より好き。」
出版元のエジャートン社
「作品の道徳性と構成が秀逸だと褒めていた。弱い部分がない。」
レディ・ロバート・カーの手紙より
「どの文章もたいへん興味深く読みましたし、私の拙い筆では言い表せないほど楽しめました。優れた人物描写、健全な分別、洗練された言葉遣い、そして純粋な道徳心にあふれたこの作品は、有益であると同時にたいそう好ましく、最高の名誉をもたらしています、等々。──エディンバラでは、聡明な人たちはみんな褒め称えています。──本当に、欠点をあげつらう言葉なんて一言も聞いたことがありません。」
ミス・シャープ[ジェイン・オースティンの親友。三兄エドワードの屋敷ゴッドマーシャムでかつて家庭教師を務めていた女性]
「傑作だと思いました──この作品には確かに健全な良識と道徳観があります。──登場人物たちは真に迫っているし、本当にとっても自然で理にかなっています──でも、正直に申し上げることをどうかお許しください、わたしはP&Pのほうが好きです。」
キャリック夫人
「思慮深く感受性の強い人々ならみな、マンスフィールド・パークのほうを好むでしょう。」
J・プランプトル氏
「これほど終始興味をそそられた小説は読んだことがない。登場人物はみな驚くほど一貫性があってたいへんうまく描かれており、筋書きもよく練られているので、H.C[rawford]とエドマンドのどちらがファニーと結婚するのか最後まで見当がつかなかった。ノリス夫人には特に楽しませてもらったし、サー・トマスは実に聡明で、彼の行動は現代の教育制度の欠陥を見事に証明している。」 ──J.プランプトル氏は2つの反対意見を唱えていたけど、思い出せるのはそのうちの1つだけ。つまり、一般読者にとって、何人かの登場人物にはインパクトや興味深さが欠けている、とのこと。
サー・ジェイムズ・ランガム&H.サンフォード氏
「P&Pよりずっと劣っていると聞いていた──最初は嫌いになりそうだったが、まもなくすこぶる気に入った──P&Pより劣っているとは全然思わなかった。」
アリシア・ビッグ
「マンスフィールド・パークを読みましたし、たいそう噂になっていて賞賛されていると聞きました。私自身は気に入っているし、実に良い作品だと思っているけれど、思ってもいないことは口にしないので付け加えておくと、他の2つの作品に比べれば確かに多くの点で優れているものの、P&Pのスピリットには及ばないと個人的には思います。ただしポーツマスの場面のプライス家の部分は別です。あの一家はとても愉快でした。」
チャールズ・オースティン[末弟]
「P&Pほど好きではなかった。──”事件”に欠けていると思った。」
ディクソン夫人
「マンスフィールド・パークを買いましたが、P&Pには及ばない。」
ルフロイ夫人
「好きだけど、ただの小説にすぎないと思った。」
ポータル夫人
「たいへんすばらしかった──でも、エドマンドがもっと前面に出てこないのが不満だった。」
レディ・ゴードンの手紙より
「たいていの小説では、その後思い返したりしないような、あるいは一般生活でほとんど出会わなさそうな想像上の人物たちが登場してきて、ほんのひと時のあいだ読者を楽しませてくれるものです。でもミス・オースティンの作品では、とりわけ『マンスフィールド・パーク』では、実際に自分も彼らと一緒に生活し、家族の一員になったかのように錯覚してしまいます。情景が実に正確に描写されていて自然なので、人生で一度や二度は目撃したことがあるとか、関わったことがある、面識がある、と思ってしまうような出来事や会話や人物ばかりです。」
ポール夫人の手紙より
「ミス・オースティンの作品を読むと、ある特別な満足感があります──それらは明らかに淑女によって書かれているという満足感です。──たいていの小説家は、上流階級の日常生活を描写しようとして、失敗をしたりお里が知れたりするものです。ほんのわずかでも下品さが出てきてしまえば、彼らは自分の書いているものを完全には熟知していないと分かるのです。でも、この作品はまったく違います。すべてが自然であり、状況や事件を語る際の語り口も、明らかに作者が上流社交界に属していることを示していますし、作者はたいへん正確にその振る舞いを描いています。」
さらにポール夫人によると、これほど多くの物議を醸したり疑念を起こしたりした小説はなく、誰もがみなこの本の作者は自分の友人だとか、あるいは自分が高く評価している人物の誰かだと思いたがっている、とのこと。
フット提督
ポーツマスの場面をわたしがこれほどうまく描く力量があることに驚いた、とのこと。
クリード夫人
「マンスフィールド・パークよりも、S&SやP&Pのほうが好き。」
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いかがでしたでしょうか? 当時からこの作品の感想は十人十色で、賛否両論あったことが分かりますね。
ラッシュワース夫人(マライア)の駆け落ちについて、男性は不自然だという意見が多い一方、女性は自然だと思うという人が多いのが面白いと感じました。(わたしもマライアの駆け落ちは自然だと思います)
『マンスフィールド・パーク』を絶賛する感想を読むと共感して嬉しくなりますし、無理解な感想には腹立たしくなってしまいます。
『高慢と偏見』のほうが好きだという意見については、もはや好みの問題なので反対はできませんが。
みなさんの感想はいかがでしょうか?