マンスフィールド・パーク 第29章/クロフォード氏とエドマンドの不在

マンスフィールド・パーク ◎マンスフィールド・パーク

 舞踏会が終わった──そして朝食もすぐに終わった。最後のキスを交わすと、ウィリアムは出発してしまった。クロフォード氏は予告どおり時間ぴったりにやって来て、短いけれども愉快な朝食の時を過ごした。

 ウィリアムを最後の瞬間まで見送ると、ファニーは沈痛な気持ちで朝食室までとぼとぼと歩いて戻り、この切ない変化を嘆き悲しんだ。サー・トマスは親切にもそこで彼女を一人で泣かせておいてくれた。彼としてはおそらく、青年たちの座っていた椅子がファニーの淡い情熱をかき立ててくれるのではないかと思ったのかもしれない。そしてまた、ウィリアムの皿に乗った冷めた豚の骨やマスタードの残りから、クロフォード氏の皿の卵の殻へと、ファニーの思いも向けられるだろうと思ったのかもしれない。たしかに伯父の思惑通りファニーは愛ゆえの涙を流していたけれども、それはきょうだい愛であって、それ以外のものではなかった。ウィリアムがいなくなってしまい、今となってみると、兄とは無関係なつまらない悩みや自分本位な心配事にばかり気を取られて、彼の滞在中の半分は無駄に過ごしてしまったように感じた。

 ファニーはノリス夫人に対してさえ、「伯母さまは普段小さな家で細々と一人侘びしく暮らしているのに、最後に一緒に顔を合わせた時、伯母さまへの配慮があまり足りていなかったわ」と自責の念を感じずにはいられない性分だった。だからましてや兄のことになると、すること話すこと考えること全てがウィリアムのためではなかった自分を許す気にはなれなかった。本来なら、この二週間はまるまる兄のために捧げられるべきだったのだ。

 その日はどんよりとして憂鬱な日だった。遅い二度目の朝食が終わるとエドマンドはすぐさま、みんなに一週間不在にすると別れの挨拶を告げ、馬に乗ってピーターバラへと行ってしまった。昨夜の思い出以外はもう何も残されておらず、ファニーはその思い出を分かち合える相手もいなかった。ファニーは伯母のバートラム夫人に話を振ってみた。どうしても昨日の舞踏会について誰かとお喋りしたかったのだ。しかしバートラム夫人は舞踏会での出来事をほとんど見ておらず、ろくに興味も持っていなかったので、話をするのも骨が折れた。バートラム夫人は、自分以外の人がどんなドレスを着ていたか覚えておらず、夜食の席で誰がどこに座っていたかも記憶になくあやふやだった。

「マドックス家のお嬢さんたちについて何か耳にしたけど、何だったかしら? 思い出せないわ。プレスコット夫人がファニーについて何か言っていたけど、何だったかしら? 思い出せないわ。ハリソン大佐がクロフォードさんかウィリアムについて、『彼はこの部屋で一番立派な青年だ』って話していたけど、どっちだったかしら? 覚えてないわ。誰かがわたしに何かささやいていたけど、何だったかしら? サー・トマスに何のことか尋ねるのを忘れていたわ」

 これがバートラム夫人の喋った一番長い言葉であり、一番はっきりしたやりとりだった。残りはただ、「ええ──ええ──とっても良かったわね──そうなの? そうだったかしら?──それは見ていなかったわ─どちらがどちらか見分けがつかなかったわ」

 これは実にひどいもので、ノリス夫人の刺々とげとげしい返事よりマシというだけに過ぎなかった。けれどもノリス夫人は、病気のメイドの看病をするといって残り物のゼリーをごっそり抱えて自宅に帰っていたので、この二人のささやかな集まりには平和でなごやかな雰囲気が漂っていた。それ以外にはあまり取り柄はなかったけれども。

 その日の晩も昼間と同じくどんよりしていた──「わたし、どうしちゃったのかしら!」お茶の食器が片づけられると、バートラム夫人が声を上げた。「何だかすごく頭がぼうっとしてるわ。昨日遅くまで夜更かししたせいね。ねえファニー、眠くならないように何かしてちょうだい。針仕事もできないわね。トランプを持ってきてちょうだいな──本当にすごく頭がぼうっとしてるわ」

 トランプを持って来ると、ファニーは就寝時間まで伯母とクリベッジ1をした。サー・トマスは一人で読書をしていたので、この二時間はゲームの点数を数える声以外、部屋に何の物音も聞こえなかった。

「これで31になります。──手札は4、山札には8です──次は伯母さまが親の番ですわ。わたしが代わりに配りましょうか?」

 ファニーは、この部屋や屋敷中のあらゆる場所が二十四時間前とはなんという違いだろう、と何度も何度も思った。昨夜は客間でも客間の外でも、至るところで希望や笑顔があふれ騒々しく賑わい、人々のざわめきと蝋燭のきらめきに満ちていた。しかし今となっては、活気もなくひっそりと静まり返っていた。

 一晩ぐっすり眠ると、ファニーの気力も回復した。翌日はウィリアムのことをもっと明るい気持ちで考えられたし、午前中にはグラント夫人やミス・クロフォードと一緒に、木曜日の舞踏会の晩のことについてお喋りするチャンスも得られた。

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想像力を存分にいきいきと働かせた二人のお喋りは本当に張り合いがあって、面白おかしく笑い合ったが、それは過ぎ去った舞踏会の思い出を懐かしむためにはどうしても必要不可欠だった。だからその後ファニーはあまり苦もなくいつもの調子を取り戻し、今現在の静かで平穏な一週間にもすんなりと順応することができた。

 マンスフィールド・パークは本当に閑散としてしまい、これほど少人数で一日を過ごすのはファニーも初めてだった。エドマンドもいなくなってしまった──どの家族の集まりや食事の時も、心安らぎ楽しい気持ちになれるかは彼の存在次第だったのだ。でもこの状況に耐えていけるようにしなければならない。そのうちエドマンドはずっといなくなってしまうのだ。ファニーはいまでは伯父と同じ部屋で座っていられて、彼の声を聞くことも質問を受けることもでき、以前よりもびくびくせずに返事をすることさえできて、本当によかったと思った。

「エドマンドとウィリアムくんがいないと寂しいね」とディナーの後、こじんまりしてしまった集まりで、初日も二日目もサー・トマスはこう言った。だがみるみる涙ぐんでいくファニーの気持ちを思いやり、最初の日はそれ以上何も言わず、彼らの健康を祈って乾杯するだけで終わった。けれども二日目はもう少し話が広がった。ウィリアムのことが褒められ、彼の昇進を願う言葉も出たのだ。

「今後はおそらく」とサー・トマスは加えて言った。「ウィリアムくんのこちらへの訪問はかなり頻繁になるかもしれない。エドマンドに関しては、彼がいなくてもやっていけるようにならねばならん。エドマンドがわたしたちと一緒に過ごすのはこの冬が最後かもしれんな」

「そうね」とバートラム夫人は言った。「でもエドマンドは行かないでほしいわ。何だか子どもたちがみんないなくなってしまうようで。みんな家にいてくれたらいいんですけど」

 この願いはおもにジュリアに対して向けられたものだった。ジュリアはちょうどその頃、マライアと一緒にロンドンへ行ってもいいかと許可を求めてきていたのだった。サー・トマスは、マライアとジュリアのどちらの娘にも許可を与えてやるのが一番良いだろうと考えていた。バートラム夫人としては、その温厚な性格から夫の意見に反対することはなかったけれども、ジュリアの帰宅を期待していただけに、計画が変更されてしまったことをくよくよと嘆いていた。もしそうでなければ、今頃にはジュリアが戻ってくるはずだったのだ。サー・トマスは妻にこんこんと良識のある言葉をかけ、このような取り決めになったことを納得してもらおうとした。「思いやりのある親ならこう感じるべきなのだよ。愛情深い母親なら子どもの楽しみを後押ししてあげようと思うべきだし、きみにもそういった母親らしい生来の感情があるはずだ」と夫人のために言葉を尽くして言った。バートラム夫人はそのひとつひとつに対して穏やかに「そうね」と相槌を打っていた──そして十五分ほど静かに考え込んだ末に、自分からこう述べた。

「ねえあなた、わたし考えていたのですけれど──こうしてファニーを引き取ることにして本当によかったと思いますわ。他の子どもたちがいなくなってみると、そのありがたみをつくづく実感しますわ」

 サー・トマスはすぐさま同意し、さらに加えて言った。

「その通りだね。こうして褒めることで、わたしたちがファニーのことをどれほどいい子だと思っているか示せるだろう──いまでは大切な家族の一員だ。いままでわたしたちはファニーに親切にしてきたが、いまや彼女のほうが我々にとってかけがえのない存在だ」

「ええ」とバートラム夫人はすぐに答えた。「それに、ファニーはずっとわたしたちのそばにいてくれると思うと安心だわ」

 サー・トマスはちょっと口をつぐみ、やや微笑みながら姪のほうを眺めて、慎重な口ぶりでこう答えた。

「ファニーがわたしたちの元を離れないことを願うよ。ただし、彼女がどこか別の家へ呼ばれることがあるなら別だがね──マンスフィールド・パークで味わうよりも大きな幸福が約束されているような所に」

「そんなことありえませんわ、サー・トマス。誰がファニーをお招きするというの? マライアなら喜んでときどきはサザートンに彼女を招待するでしょうけど、でもまさかあそこに住んでもらおうと考えるはずありません──ファニーだってここのほうがいいはずよ──それにわたし、ファニーがいないと困るわ」

 その週はマンスフィールド・パークの屋敷では実にひっそりと平穏に過ぎていったけれども、牧師館のほうではかなり違った様相を見せていた。少なくとも両家のお嬢さんたちは全然違った感情を抱いていた。ファニーにとっての平静さや安らぎは、メアリーにとっての退屈や苛立ちだったのだ。それは性格や習慣の違いによるものでもあったが──ファニーはたやすく満足できるが、メアリーは我慢することにまったく慣れていなかったのだ──二人の状況の違いによるところも大きいだろう。いくつかの点において、二人の利害は完全に正反対だった。ファニーにとってエドマンドの不在は、ミス・クロフォードへの思いを断ち切って牧師になる決意をしたという、その理由と意向からしても安堵そのものだった。一方でメアリーにとって、それはどの点からしても苦痛だった。メアリーは毎日、いや毎時間と言っていいほど喪失感を覚えていた。彼女はエドマンドのことがあまりにも恋しかったから、聖職叙任という彼の滞在目的を思うと、ただもうイライラとした気持ちしか湧き上がってこないのだった。エドマンドはこの一週間の留守によっていままでにないほど存在感を増すことになったが、これ以上に存在感を増す方法を考え付くことはできなかっただろう。彼女の兄のヘンリーやウィリアム・プライスが去ったのとちょうど同じ時期に出発し、あれほど活気に満ちていた集まりはこれで完全に解散という形になったのだ。メアリーの胸中は痛切だった。

 牧師館の人たちはいまやみじめな三人組であり、連日降り続く雨と雪のせいで、何もやることもなければ目先の変わる希望もなく、屋内に閉じ込められたままだった。メアリーは、エドマンドが自分の考えに固執しそれを実行に移したことに怒りを覚えていたけれども(腹立ちのあまり、舞踏会では二人はほとんど喧嘩別れに近い別れ方をしたのだ)、いざいなくなってみるとしょっちゅう彼のことを考えずにはいられなかった。彼の長所や愛情を思い出してみたり、最近までそうだったように、また毎日のように彼に会いたいと願ったりしていた。エドマンドの滞在は不必要に長かった。彼はこんな計画を立てるべきではなかったのだ──彼女自身のマンスフィールド出発がもう間近に迫っているというこの時に、エドマンドは屋敷を一週間も離れるべきではないのだ。それから今度は、メアリーは自分自身を責めた。あの最後の会話で、あんなひどい言い方をしなければよかった。牧師について話すときに、何度かキツい表現を──牧師をばかにするような表現をしてしまったことを悔やんだし、あんなことを言うべきではなかったと思った。あれは失礼だったし──間違っていた。メアリーは「あんな言葉を口にしなければよかった」と心の底から思っていたのだった。

 メアリーの苦しみはその週では終わらなかった。これだけでも散々なのに、金曜日になってもエドマンドは帰って来なかったものだから、よりいっそうつらい思いを味わわなければならなかった──そして土曜日になったが、それでもエドマンドは戻って来なかった。日曜日になるとバートラム家の人たちとほんの少し交流することができて、そこでメアリーは知ったのだが、エドマンドはじつは家に手紙を書いていて、帰宅が遅れると知らせてきたらしい。友人宅での滞在がさらに数日長くなりそうだというのだ!

 もしメアリーがいままで焦りや後悔を感じていたのだとしたら──自分の言ったことを申し訳なく思い、あまりにもきつく言い過ぎたのではないかと恐れていたのだとしたら、彼女はいまやその十倍にも増して痛切に感じ、恐れていたのだった。おまけに彼女はいまだかつて感じたことのない、全く新しい不愉快な感情と戦わねばならなかった──嫉妬心である。彼の友人のオーウェン氏には姉妹がいるが──エドマンドは彼女たちのことを魅力的だと思うかもしれない。だがいずれにせよ、前々からの計画で彼女がロンドンへ移るというのに、彼がこんなときに家を離れていることは、到底耐えがたいことを意味していた。もしヘンリーが本人の言う通り三、四日のうちに戻ってきたら、彼女はマンスフィールドを離れることになるのだ。こうなっては、ファニーから何かもっと情報を引き出すことが絶対に必要だ。もうこれ以上一人ぼっちでみじめに過ごすなど我慢ならない。そうしてメアリーは、一週間前にはとても歩けそうにないと思っていた悪路を押して、マンスフィールド・パークの屋敷へと向かった。ほんのわずかでもいいから新しい情報を聞きたかったし、せめて彼の名前だけでも耳にしたかったのである。

最初の三十分間は無駄に過ぎてしまった。というのもファニーとバートラム夫人が一緒にいたので、ファニーと二人きりになれなければ、話を引き出せる望みは全くなかったからだ。しかし、ようやくついにバートラム夫人が部屋を出て行った──そしてすぐさまミス・クロフォードはできるだけ声を落として、こう切り出した。

「それで、エドマンドさんがこんなにも長く留守にしていること、あなたはどう思う?──あなたはこの屋敷で唯一の若者だから、きっといちばん苦しんでいるでしょうね。──彼がいなくて寂しいはずよね。彼の滞在が長引いてしまうなんて、驚いたんじゃない?」

「さあ……」ファニーはためらいながら言った。「そうですね──特に予想もしていませんでした」

「たぶん彼はいつも、自分で言っているより滞在が長くなってしまうんでしょう。若い男性はたいていみんなそうね」

「いいえ、以前一度だけオーウェン氏の家を訪ねたときは、滞在が長くなることはありませんでしたわ」

「それじゃ、いまでは以前よりも居心地が良いと思ってるのね。──エドマンドさんって本当に──とっても感じのいい方だわ。わたし、ロンドンに行く前にもう彼にはお目にかかれないのかしらってちょっと心配ですの。もう今となっては間違いなく会えなくなってしまいそうだわ。毎日ヘンリーのことを心待ちにしていますけど、兄が到着したらもうマンスフィールドにはわたしを引き留めるものは何もありません。でも正直言って、もう一度だけでもエドマンドさんにお会いしたかったわ。彼に必ずよろしくとお伝えしてくださいね。そう──よろしくというご挨拶をね。ねえミス・プライス、英語にはある言葉が欠けていると思いません?──『よろしく』と『愛を込めて』の中間の言葉が──わたしたちがしていたような親密なお付き合いにピッタリと合うような言葉が? 何か月ものお付き合いだったわ! でもこの際は『よろしく』で十分かもしれないわね。──彼の手紙って長いのかしら?──いったい何をして過ごしているのか、彼はあなたにちゃんと説明してくれた?──彼が滞在しているのは愉快なクリスマスパーティーがあるからかしら?」

「わたしはただ手紙の一部分を聞いただけなんです。伯父さま宛てでしたから──でもすごく短い手紙だったと思います。本当に二、三行だけの。わたしが聞いたのは、彼のお友達がもっと泊まっていけと勧めてくるのでそうすることにした、ということだけです。二、三日だったか、数日だったか、あんまり確かじゃありませんけど」

「あら! 彼はお父さまに手紙を書いたのね──お母上のバートラム夫人かあなたに宛てて書いたんだと思っていたわ。だけどお父上に書いたのなら、手短なのも不思議じゃないわ。誰がサー・トマスに世間話をしようなんて思うでしょう? もしエドマンドさんがあなたに手紙を書いていたなら、もっと詳しかったはずね。舞踏会とかパーティーのことについて聞いていたはずだわ。──あらゆる事柄や人物について詳細を書き送っていたにちがいないもの。オーウェン家のお嬢さんって何人いらっしゃるの?」

「お年頃の方が三人です」

「みなさん音楽をなさるのかしら?」

「さあ、分かりません。聞いたことありませんから」

「これって、自分も楽器を演奏する女性なら、まず真っ先に他の女性にも尋ねる質問でしょうね」とミス・クロフォードは陽気に何気ないふうを装いながら言った。「だけど、若いお嬢さんについて聞くにはばかげた質問ね──どんなお年頃の三姉妹のお嬢さんについてもよ。だって、わざわざ言われなくたってどんな方か知れていますもの──みんなとっても教養があって感じが良くて、そのうちの一人はすごく美人なのよ。どの家族にも一人は美人がいるのよね。二人はピアノをやっていて、一人はハープをたしなんでいて──全員歌がお上手で。あるいは先生に教えてもらえば歌がお上手とか──またあるいは全然教えられていないけど歌えるとか──そんなところよ」

「オーウェン家のお嬢さまたちについては何も知らないんです」とファニーは穏やかに言った。

「みんなの言うとおり、あなたは何も知らないし、あんまり気にしたりしないのね。これ以上ないっていうくらい無関心そうな口調ですもの。たしかに、一度も会ったこともない人たちのことなんか気にかけようがないわね。──まあ、エドマンドさんが戻ったら、マンスフィールドはすごくひっそりしてると思うでしょうね。──あなたのお兄さんやヘンリーとかわたしとか、騒がしい人たちがみんないなくなってしまうから。こうして出発の日が迫ってくると、グラント夫人を置いていくのが残念だわ。お姉さまはわたしが行くのを嫌がっているの」

ファニーは何か言わなければならないと思った。

「あなたがいなくなれば、間違いなくみなさん寂しいと思うでしょうね。きっとみなさん寂しがると思います」

ミス・クロフォードはもっと聞きたそうにしてファニーのほうに目を向けると、笑いながら言った。

「まあ! そうね、どんなうるさい人間でもいざいなくなってみると寂しいでしょうね。全然違ったように感じられるでしょうから。だけど、わたしはお世辞を言ってもらうつもりはないし、お世辞は結構よ。もし寂しがられているなら、自然にそうと分かりますもの。わたしに会いたい人がいれば、きっと会いに来るはずよ。だって別に、どこか怪しげな遠くの到達不可能な場所に行くわけじゃありませんからね」

今度はファニーは何も口にしなかったので、ミス・クロフォードはがっかりした。彼女は、ファニーなら自分の心境を分かってくれているはずだと思っていたから、自分の影響力を請け合ってくれるような耳当たりの良い言葉を聞きたかったのだ。ミス・クロフォードはふたたび気を落とした。

「オーウェン家のお嬢さんたちのことですけど──」ミス・クロフォードはその後すぐに言った──「オーウェン氏のご姉妹のうちの誰かが、ソーントン・レイシー牧師館に落ち着くと考えてもみてごらんなさいな。あなたはどうお思いになる? もっとおかしなことだって起こってますものね。きっと、彼女たちは牧師館の女主人の座を狙っているはずよ。たいそう結構な縁組でしょうから、それも当然ね。わたしとしては全然不思議とも思わないし、彼女たちのことを別に非難もしません。──誰だってできるかぎり上手に世渡りしていくのが義務ですもの。サー・トマス・バートラムのご子息なら大したお相手だわ。それに彼はもうオーウェン家の方々と同じ職業に就くのだし。彼女たちのお父さまも牧師で、お兄さまも牧師で、みんな牧師なんですもの。エドマンドさんはあの人たちのものにする法的な権利があるし、彼らの身内と言っていいんだわ。あらファニー、何も言わないのね──いえ、ミス・プライス──何もおっしゃらないのね。──だけど正直言って、そんな事態になりそうだとは思いません?」

「いいえ」ファニーはきっぱりとした口調で答えた。「全然そんなこと思っていません」

「全然ですって!」ミス・クロフォードはすかさず叫んだ。「それはどうかしら。でもあなたははっきりご存じのようね──あなたはそうだといつも思っていたけど──たぶんこう考えているのね、彼は全然結婚する気がないと──あるいは今は結婚する気がないのだと2

「ええ、そうだと思います」とファニーはそっとつぶやいた──エドマンドは結婚しないと信じていたし、また結婚しないつもりらしいと認めてもいたが、どうか間違っていませんようにと願いながら。

 ミス・クロフォードはファニーを鋭く見つめた。じっと見つめられたファニーがすぐにサッと顔を赤らめたので、ミス・クロフォードはかなり元気を取り戻し、ただこれだけ言った。

「彼は今のままが一番良いのね」

そして話題を変えた。

  1. クリベッジは主に二人で行うトランプゲームで、長い静かな夜に年配の人々が楽しむ遊戯という印象が強い。各プレイヤーは六枚ずつ手札を持ち、うち二枚ずつを捨ててクリブ(crib、山札)として裏返しての場に積んでおいてから、残りを交互に場に出していろいろな組み合わせを作り、その得点を競う。得点は、小さな穴のたくさんあいた板の上でピンを動かしながら記録する。
  2. つまりメアリーは、ファニーがエドマンドから何か打ち明け話をされているのではないかと推測して、ファニーから彼の結婚に対する意志を聞き出そうとしている。まさかファニーが彼に恋心を抱いているとは全く気付いていない。
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