高慢と偏見 第6章/ルーカス家でのパーティー

◎高慢と偏見

 ロングボーンの婦人たちはまもなくネザーフィールドを訪問し、返礼も形式通りに行われた。ベネット嬢の感じの良い振舞いに、ハースト夫人とビングリー嬢はますます好感を持った。だが母親は我慢ならなかったし、下の妹たちは話しかける価値もないと分かった。もっと深くお知り合いになりたいという意志は、上の2人の姉妹に対してのみ示された。ジェインはこの好意を非常に喜んで受け入れた。しかしエリザベスはやはり、この姉妹を好きになれなかった。ビングリー姉妹がみなに対して見下すような態度を取るのを見逃さなかったし、それは姉に対してさえもほとんど例外ではなかった。けれども姉妹がジェインに対して親切であることは、その程度にすぎなかったとしても、価値が有ることにはちがいなかった。おそらく姉妹がジェインに親切にしているのは、兄のビングリー氏が賞賛しているおかげなのだ。2人が会った時はいつも、ビングリー氏がジェインに心惹かれているのはだれが見ても明らかだった。ジェインの方も初めから彼に好意を抱いていたが、だんだんそれを抑えきれなくなっていた。姉がかなり恋に落ちているのは、エリザベスにも明白だった。しかし彼女は、このことがまだ周囲に悟られていないと分かり喜んだ。姉には自制心があり、落ち着いていて常に一定の明るさがあったから、図々しい人々から疑われずに済んで身を守ることができたのだ。エリザベスはこのことをルーカス嬢に話した。

「おそらく愉快でしょうね」シャーロットは答えた。「そんな場合に世間の人々の目を欺くことができれば。でも、そんなに警戒していると時々不都合なこともあるわ。好意を持つ相手の男性にたいしても同じように自分の愛情をひた隠しにしていると、その人の気持ちを掴みそこねてしまうかもしれない。そしたら、世間の人々だって何も知らないのだからと思ったって、何の慰めにもならないでしょう。だいたいほとんどの愛情には感謝の念や虚栄がつきものなのだから、愛情を出し惜しみするもんじゃないわ。みんな気軽に好意を持ち始めるし、ちょっと好きになることは自然なことよ。でも、何の励ましもなしに本当に愛し続けることができる人はめったにないわ。十中八九、女性は実際感じているより多くの愛情を示したほうがいいのよ。ビングリーさんはジェインのことを間違いなく好きだわ。でも好き以上にはならないかもしれない。ジェインが彼の気持ちの後押しをしなければね」

「でもジェインはたしかにビングリーさんに愛情がある素振りをしているわ、お姉さまなりにね。わたしがジェインの好意に気付いているのだから、ビングリーさんも気づいていなければ、よっぽどのおばかさんに違いないわ」

「いいこと、イライザ。ビングリーさんはあなたほどジェインの性格をまだ知らないのよ」

「でももし女が自分にだけ特別扱いをして、そしてそれを隠そうともしなければ、男は絶対に気付くはずよ」

「おそらくそうでしょうね、それが分かるくらい十分に会っていればね。ビングリーさんとジェインはかなり会っているほうだけれども、何時間も一緒にいるわけじゃない。それにいつも大勢の中で会っているから、じっくり2人で会話することもできないわ。だからジェインは短時間で最大限彼の注意を引き付けるよう努力すべきなの。彼の心をがっちり捕まえたならば、そのあとゆっくり好きなだけ恋に落ちる時間はあるわ」

「あなたの計画はたいしたものね」エリザベスは答えた。「ただただ良い結婚をしたいということだけが問題ならば。もしわたしがお金持ちの夫、それかどんな夫でもいいから持ちたいと決めたのなら、その方法を採用させてもらうわ。けれど、そういったものはジェインの性格ではないわ。彼女は策略で動く人ではないもの。それにジェイン自身、自分がどれくらいビングリーさんのことを好きなのか、その好意が適切なのかさえもまだ分かっていないのよ。知り合いになってたった2週間しか経っていないし。ダンスしたのはメリトンで4回だけ。ビングリーさんのお宅で朝にお会いしたのは1回、一緒にディナーを食べたのが4回よ。これじゃあビングリーさんの性格を理解するのに十分とは言えないわ」

「とらえ方の問題よ。ジェインがただ単にディナーを共にしただけならば、ビングリーさんが食欲旺盛だということが分かるにすぎないわ。でも覚えておいてね、4日の晩じゅう一緒に過ごしたのよ──4晩もあったらたくさんのことが分かるわ」

「そうね。4晩一緒に過ごして分かったのは、2人ともトランプ遊びでは、コマースよりヴァンタンが好きだということよ。でも主にどんな性格かに関しては、あまり明らかになったとは思えないの」

「まあ」シャーロットは言った。「わたしはジェインが成功することを心から願っています。もしジェインが明日結婚したとしても、12ヶ月間ビングリーさんの性格を観察したのと同じくらい、幸せになる見込みがあると信じているわ。結婚における幸福なんて完全に偶然の問題よ。2人の性格がいくらあらかじめよく理解し合えてたって、もしくは似ていたって、ちっとも結婚生活における幸せを増すことにはならないわ。悩みを共有するにつれて、後から2人の性格もどんどん違ったものになっていくのよ。一生を共に過ごす相手の欠点なんかできるだけ知らない方がいいのよ」

「あなたって可笑しいわ、シャーロット。でもそれって健全じゃないわね。自分でもそうだと分かっているから、絶対そんな風に行動しないでしょう」

 ジェインに対するビングリー氏の愛情を観察するのに夢中だったため、エリザベスは自分が、彼の友人であるダーシー氏の興味の対象になり始めていることにまったく気付いていなかった。ダーシー氏は最初、エリザベスを綺麗だとはほとんど思っていなかった。舞踏会でも、賞賛の目で彼女を見ることはなかった。次に会った時は、ただ批判するためだけに見た。しかし自分自身にも友人たちにも、彼女の顔には取り立てて美点はないとはっきりさせた瞬間、あることに気付いたのだった。エリザベスの暗褐色の目が美しい表情を見せていて、それによってめったにないほど聡明で知的な印象をもたらしているのだ。この発見に続いて、ほかの発見も同様に屈辱的なものだった。エリザベスの外見は完璧に釣り合いの取れたものではない、と批判的な目で粗探ししたものの、彼女の体つきは軽やかで好感が持てると認めざるをえなかった。エリザベスの立ち居振る舞いは決して上流階級のそれではないと断言できたけれども、その魅力的ないたずらっぽさに心を掴まれた。これらのことを、エリザベスはまったく気付いていなかった。─彼女にとってダーシー氏はどこにいても無愛想な人で、自分のことを一緒にダンスをするほど美人ではないと思っている人にすぎなかった。

 ダーシーは、エリザベスのことをもっとよく知りたいと思った。会話をするための第一歩として、彼女が他の人と会話しているのに耳を傾けた。ダーシーのこのような行為はエリザベスの目に留まった。それは、サー・ウィリアム・ルーカスの屋敷で大きなパーティーが開かれた時だった。

「どういうことなのかしら」エリザベスはシャーロットに言った。「ダーシーさんは、わたしとフォスター大佐との会話を立ち聞きなんかして?」

「それはダーシーさんだけが答えられる質問ね」

「だけどもし同じことをしてきたら、『わたしはあなたが何をたくらんでるか分かってます』と必ず言ってやるわ。あの方はとても批判的だから、不遜なくらいの態度で初めからいかなけりゃ、すぐにあの方のことを恐れてしまいそうよ」

この後すぐにダーシー氏が近づいてきた。話しかけようとする意志は見受けられないものの、ルーカス嬢が「さっきの話題を話しかけてみたら」と迫ったので、エリザベスはすぐにやってみる気になった。エリザベスはくるりと振り向いて言った。

「ねえダーシーさん、先ほどわたしがフォスター大佐に、メリトンで舞踏会を開くようけしかけた言い方はなかなか良かったと思いません?」

「すこぶる意気盛んなものでした。──舞踏会というものはご婦人方をいきいきさせますからね」

「女性に対して手厳しいんですのね」

「今度はエリザベスがからかわれる番ね」ルーカス嬢が言った。「わたし、ピアノの蓋を開いてくるわ、イライザ。あとはよろしくね」

「あなたってなんて変わった友人なんでしょう!──いつもわたしに人前で演奏させたり歌わせたりして!──もしわたしが音楽の才能を見せびらかしたいと思っていたら、あなたの存在はありがたいだろうけども。でもこの通り才能などないのだから、立派な演奏や歌を聞くのに慣れている人の前でやりたくないわ」

だがルーカス嬢がしきりにせがむので、エリザベスは言った。

「わかりました。どうしてもというのならやるわ」

そして真面目な顔つきでダーシー氏を見つめながら、「ちょうどいいことわざがありますわね、こちらにいらっしゃる方はみなさんご存知でしょうけど──『粥を冷ますのに十分なだけの息を取っておけ』──わたしも、自分の歌を歌うのに息を取っておきますわ」

エリザベスの歌と演奏は心地よいものではあったが、決して第一級のものではなかった。一、二曲披露したあとに何人かからもう一度歌ってほしいと求められたが、エリザベスは固辞してピアノをメアリーに譲った。

メアリーは姉妹の中で唯一不器量であったため、知識とたしなみを身につけることに躍起になっていて、それをいつも披露したくてうずうずしているのだ。

 メアリーは生まれつき出来がいいわけでもなく、趣味がいいわけでもなかった。虚栄から必死に練習に励んでいたけれども、そのせいで同時に物知りぶった雰囲気や、うぬぼれた態度になってしまっていた。そのような態度は、メアリーよりはるかに優越した技量の人であったとしても玉に瑕となっただろう。エリザベスは気さくで気取ったところのない演奏だったので、メアリーの半分も上手くはなかったけれど、聴衆の耳には心地よかった。そしてメアリーは長い協奏曲を弾き終わると、つづいて妹たちのリクエストに応じてスコットランド風とアイルランド風の曲を弾き、みなに褒められて喜んだ。キャサリンとリディアはルーカス家の子供たちと2,3人の士官たちに混じって、部屋の端の方で熱心にダンスに興じていた。

 ダーシー氏は、近くに立ってそれを見ていて内心憤りを覚えていた。参加者同士の会話もなく、このように夜を過ごさなくてはならないとは。ダーシー氏は自分の思索に没頭していたため、サー・ウィリアム・ルーカスがすぐそばまで来ていることも知らずにいた。サー・ウィリアムはついにこう話しかけた。

「若い人々にとって、これはなんて魅力的な娯楽でしょう、ダーシーさん! ダンスほど素晴らしいものはありませんな。ダンスとは、上流社会における最も洗練されたものの1つだと思っておりますですよ」

「その通りです。──そしてまた、あまり洗練されていない社会でも流行するという利点があります──野蛮人でもダンスはできる」

サー・ウィリアムはただ微笑んだだけだった。やや沈黙のあと、また続けた。

「あなたのお友達は楽しそうに踊っておられますね」ビングリー氏が踊りのグループに加わるのを見て言った。

「あなたもきっとダンスに熟達されているのでしょう、ダーシーさん」

「ぼくがダンスするのをメリトンでご覧になったと思われますが」

「ええ、その通りです。わたしはそれを拝見して、大いに嬉しくなりましたよ。セント・ジェームズ宮殿ではよく踊られますか?」

「いいえ、一度も」

「ダンスこそが、その場所において適切な敬意を払っていることとは思われませんか?」

「避けれるものなら、どんな場所に対してもそんな敬意を払うのは御免こうむりたい」

「ロンドンに邸宅を持っておられるものと思いますが?」

ダーシー氏は軽く頭を下げた。

「わたしもかつて、ロンドンで腰を落ち着けようと思った時期がありました──上流社会が性に合いますものでね。しかし、ロンドンの空気は妻に合わないのではと懸念しまして」

サー・ウィリアムは返事を期待して待った。だが相手は答える気がないようだった。その時ちょうどエリザベスがこちらの方向にやってきた。サー・ウィリアムは常に慇懃であることに心を砕いているので、彼女に呼びかけて、

「これはこれはイライザ嬢、なぜダンスをしておられないのですか?──ダーシーさん、かたじけなくもこのご婦人を、あなたにふさわしいダンスのパートナーとして紹介させて頂きます。──お断りすることなどできないでしょう、このような美人が目の前におられるのだから」

高慢と偏見

そしてエリザベスの手を取って、ダーシー氏に渡した。彼は非常に驚いていたけれども、嫌ではなさそうだった。エリザベスはすぐに後ずさって、少し狼狽しながらサー・ウィリアムに言った。

「本当に、ダンスなどちっともしたくありませんわ。──お願いですから、パートナーを探しにこちらに来たなどと思わないでくださいな」

ダーシー氏は真面目に礼儀正しく、よろしければ彼女の手を取らせて頂きたいと願い出たが、無駄だった。エリザベスの決意は固かった。サー・ウィリアムもいっしょになって説得したけれども、彼女の決意を揺るがすことはできなかった。

「あなたのダンスの腕は卓越したものです、イライザ嬢。あなたがダンスするのを見る喜びを奪うなんて酷いですよ。そしてこちらの紳士はこのような娯楽を普段は嫌悪しておられるが、半時間ほど時間を割いて頂くことに異存があるはずはないでしょう」

「ダーシーさんは親切そのものでいらっしゃいます」

「その通りです。しかしイライザ嬢、あなたの美しさを考えれば、ダーシーさんの親切さには驚くことなどありませんな」

エリザベスは茶目っ気たっぷりの眼差しをして、くるりと去っていった。彼女に拒まれても、ダーシー氏は傷付くことはなかった。そしてエリザベスについて一人思いを巡らせていると、ビングリー嬢がずけずけと話しかけてきた。

「あなたが何を考えていらっしゃるか、当てられますわ」

「そうは思えませんが」

「こんな風に多くの夜を過ごすのは、耐えられないと思ってらっしゃるんでしょう──こんな社交界では。わたしもあなたと同意見ですわ。こんなに不愉快になったことありません! 退屈で、うるさくて。誰も彼も、つまらないのにうぬぼれていて!──あなたの酷評をぜひ聞きたいものね」

「あなたの推測は全然見当はずれですよ。ぼくの心はもっと快いものに引き込まれています。見目麗しい女性の美しい2つの目が与える大いなる喜びについて、思いを馳せていたのです」

ビングリー嬢はすぐに彼の顔をじーっと見つめて、「そのような考えを抱かせた、栄誉ある女性はどなたなのでしょう」と訊ねた。ダーシー氏は大胆不敵にも答えた。

「エリザベス・ベネット嬢です」

「エリザベス・ベネット嬢!」ビングリー嬢は答えた。

「驚きましたわ。いつからそんなお気に入りになったんですの?──そしていつ、あなたにお慶びを申し上げればいいんですの?」

「そう訊ねてくるだろうと思っていましたよ。女性の想像力はせっかちですね。賞賛から愛情へ、愛情から結婚へとすぐに一足飛びに行ってしまう。あなたはお慶びの言葉をおっしゃるだろうと思っていました」

「いいえ、あなたがそんなに真剣なのならば、この事は完全に決まったものと見なしますわ。すてきな義理のお母様をお持ちになるのね、ほんとうに。もちろん、ペンバリーでご同居なさるのでしょうね」

ビングリー嬢がこのような想像をして楽しんでいるあいだ、ダーシーは全くの無関心で聞いていた。ダーシーは落ち着き払っていたので、彼女は何を言っても大丈夫そうだと思い、皮肉な冗談をぺらぺらと喋り続けていた。

 

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