高慢と偏見 第33章/フィッツウィリアム大佐からの情報

◎高慢と偏見

 ロージングズ・パーク内をエリザベスがぶらついている時、何度か思いがけずダーシー氏に出くわすことがあった。──誰もこないはずの場所なのに出会ってしまうなんてツイてないわ、と彼女は自分の運のなさを嘆いた。そのためこういうことが再び起こらないように、最初の時に「ここはわたしのお気に入りの散歩道なんです」と彼に知らせておいた。──だから、二度目も鉢合わせたのはほんとうにおかしなことだった!──それどころか三度目もあった。これは故意に意地悪なことをしているか、自発的にみずからに苦行を課しているかとしか思えなかった。なぜならこのような折には、彼はただ形式だけのあいさつをして、気まずく黙り込んだ後そのまま立ち去るのだが、わざわざ引き返してきてエリザベスと一緒に歩かねばならないと考えているようだったからだ。彼はあまり口を開かなかったし、エリザベスもあえて話をしたり耳を傾けようとは思わなかった。しかし三回目にばったり遭遇した時に、彼はいくつか奇妙で脈絡のない質問をしてきた──ハンスフォードにいるのは楽しいですかとか、一人で散歩するのはお好きですかとか、コリンズ夫妻は幸せそうだと思われますか、などなど。そしてロージングズについては、彼女がまだあの屋敷のことを完全には分かっていないという話になると、彼女が次回ケントに来た際には、そこで泊まることになるはずだと彼は思っているようだった。言葉の端々からそれがなんとなく伝わってきた。ダーシーさんはフィッツウィリアム大佐のことを思い浮かべているのかしら? 彼が何かを意味しているとしたら、その筋で起こりそうなことをほのめかしているにちがいない。そう思われていると考えると少し心苦しかったので、牧師館の向かいにある門の柵につくとかなりほっとした。

 ある日、エリザベスは歩きながら、ジェインからの手紙を再び丹念に読み返していた。ジェインの筆にあまり元気がないと思われる箇所に目を留めていると、今度は驚いたことにダーシー氏ではなく、ふと見上げるとフィッツウィリアム大佐と顔を合わせていた。エリザベスはすぐに手紙をしまい、無理に笑顔を作ってみせてこう言った。

「こちらまで散歩なさっていたとは、存じませんでしたわ」

「パーク内をぐるりと周っていました」と彼は答えた。「たいてい毎年そうしているんです。ついでに牧師館も訪ねようと思っていたものですから。まだ遠くまで歩かれますか?」

「いいえ、そろそろ戻ろうと思っていました」

その言葉どおり彼女は向きを変えて、二人は牧師館に向かっていっしょに歩いた。

「本当に土曜日にケントを離れてしまわれるのですか?」とエリザベスは言った。

「そうです──もしダーシーがまた予定を延期しなければですが。でもぼくは彼の言いなりなんです。彼は自分の思うがままに計画を立てられるのです」

「もしその計画が気に入らなかったとしても、あの方は少なくともそうやって決める権限があることに大きな喜びを感じられますわね。わたし、ダーシーさんほどそういう権力を楽しんでいる方を知りませんわ」

「彼は自分のやりたいようにやるのを非常に好んでいますね」フィッツウィリアム大佐は答えた。「しかし、ぼくたちみなそうでしょう。ただ彼は金持ちで、他の大多数の人たちは貧しいのですから、彼は意志を通す手段に不自由しないというだけです。ぼくは感情面のことを話しているのです。次男というものは、自分を抑えることや他人に頼ることに慣れねばなりませんから」

「わたしの考えでは、伯爵の次男はそのどちらもほとんど経験したことがないのではと思いますわ。真面目な話、自制心や他人へ依存することについていったい何をご存知なのです? いままで、お金が足りなくて行きたい場所に行けなかったり、欲しい物が手に入れられなかったことがありまして?」

「これは参りましたね──たぶん、ぼくはそのような性質の苦労は経験したことがないかもしれません。でももっと重要な事柄では、財産がないことに苦しんでいるかもしれません。長男以外の息子は、自分の好きなように結婚することができないのです」

「財産のある女性でも好きになれば別ですわね、よくあることですけれど」

「ぼくたちの生活様式は費用がかかるために、あまりに人に頼りすぎるようになるのです。それに、ぼくたちの階級の人間で、お金のことをある程度気にせず結婚できる余裕のある者はあまり多くありません」

『これは──』エリザベスは思った。『わたしのことを言っているのかしら?』こう考えると彼女は赤面した。だがすぐに気を持ち直して明るい声で、「そうすると、伯爵の次男さまは普通おいくらくらいで結婚できるんでしょう? 長男の方がひどく病弱でもない限り、5万ポンド以上要求されることはないでしょうね」

彼も同じく明るい調子で答えて、この話題は途絶えた。この話の内容のことを気にして黙り込んでいると思われたくなかったので、エリザベスはすぐにこう言った。

「ダーシーさんがあなたを連れてこられたのは主に、誰か自分の意のままになる人をそばに置いておきたいからなのでしょうね。なぜあの方は結婚なさらないのでしょう? そしたら半永久的にそういったことができますのに。でも今のところは、彼の妹さまがその役目を果たしているのでしょうね。ダーシー嬢はあの方だけの監督下にあるのですから、妹さまのことはどうとでもできるわけですね」

「いいえ」フィッツウィリアム大佐は言った。「その立場はぼくと彼とで分け合っています。ぼくたちはダーシー嬢の共同後見人なのです」

「あら、そうでしたの? 後見人ってどんなことをなさいますの? 被後見人に手を焼かれたりしますか? あの年頃の若いお嬢さんは、ときに扱いが難しいですものね。それに、もし彼女も真のダーシー家的精神をお持ちでしたら、自我を通すのがお好きなのでしょうね」

こう話している間、エリザベスは大佐が自分のことを熱心に見つめているのに気付いた。すぐに大佐が「なぜダーシー嬢はぼくたちに心配をかけそうだと思われるのですか」と聞いてきた態度から、彼女の言ったことはかなり真実に近いものだと確信できた。彼女はただちにこう返事した。

「恐れる必要はありませんわ。わたしは何も彼女について悪い評判は聞いたことはありません。たぶん、この上なく素直なお嬢さんなのだと思いますわ。彼女は、わたしの知り合いのハースト夫人とビングリー嬢の大のお気に入りなのです。確か、あの方たちのことはご存知だと以前おっしゃってましたわね」

「少しですが知っています。お兄さまは気持ちの良い紳士的な人ですね──彼はダーシーの親友だとか」

「ええ! そうですわ」エリザベスは冷淡に言った──「ダーシーさんはビングリーさんに対してめったにないほど親切ですし、驚くほどいろいろと面倒を見てあげているのです」

「面倒を見る!──ええ、ダーシーなら確かに、ビングリーが世話を必要とするような点でいろいろ面倒を見ているでしょうね。こちらへの旅の途中にダーシーから聞いた話からすると、ビングリーは彼に相当な恩があるらしいと考える理由があります。しかし間違っていたら彼に失礼かもしれませんね。ビングリーが、その話の人物だと推測する筋合いはありませんので。すべてぼくの憶測にすぎません」

「それはどういうことですの?」

「ダーシーはもちろん、公に知られたくないだろうと思われる状況なのです。もしこの話がその女性のご家族に伝わったら、不愉快なことになるでしょう」

「安心してくださいな、わたしは誰にも言いません」

「それに、これがビングリーのことだと推測する理由も、そう多くあるわけではないと覚えておいてください。ダーシーが話したことはただ単に次のようなことです。最近、かなり軽率な結婚をしようとしたある友人を救ってやった、と喜んでいました。ですが具体的な名前や詳細は言いませんでしたので、ぼくはただビングリーならやりかねないだろうと思っただけでした。彼はそのような類の窮地に陥るような青年に思えますのでね。昨年の夏の間じゅう、あの二人はずっと一緒に過ごしていたそうですから」

「ダーシーさんはその干渉の理由をおっしゃいました?」

「おそらくその女性に、なにか非常に強力な反対すべき理由があったようです」

「それであの方は二人を引き裂くために、どんな策を弄しましたの?」

「彼は自分が行った策略のことは話しませんでした」フィッツウィリアムは微笑みながら言った。「彼はただ、今ぼくが言ったことを話しただけです」

エリザベスは返事をせず歩き続けていたが、胸の中は怒りで膨れ上がっていた。彼女のことをやや見つめていた後、フィッツウィリアムは「なぜそんなに考え込んでおられるのですか」と尋ねた。

「いま話してくださったことを考えていたのです」彼女は言った。「あなたの従兄弟さまの行為に納得がいかなくって。なぜあの方がそんなことを決めるんでしょう?」

「彼の介入はむしろ、おせっかいだとおっしゃりたいのですね?」

「なぜダーシーさんがご友人の意図が正しいかを決めるのかわかりません。それになぜあの方の判断だけで、ご友人が幸せになれるような方法を取り決めたり、指図なさるのか理解できませんわ」

「でも──」落ち着きを取り戻してエリザベスは続けた。「詳しいことは何ひとつ知らないのですから、ダーシーさんを責めるのは公平じゃありませんね。きっとこの件では、二人の間にあまり愛情もなかったのでしょう」

「不自然な推測ではありませんね」フィッツウィリアムは言った。「でもその場合悲しくも、得意げに勝ち誇っている従兄弟の面目も失われてしまうでしょうね」

 これは冗談まじりだったが、それはエリザベスが想像するダーシー氏の様子とぴったり一致しているように思えたので、怒りでまともに返事もできそうにないくらいだった。そのため唐突に話題を変えて、牧師館に着くまでとりとめのないことを話した。到着して大佐が帰るとすぐに彼女は自分の部屋に閉じこもり、誰にも邪魔されずにさっき聞いたことを考えることができた。大佐の話が、自分に関わりのある人々以外のことを意味しているとは思えなかった。ダーシー氏がそんなにも多大な影響力を与えられる人物は、この世に二人と存在しないはずだ。ビングリー氏とジェインを引き裂くための工作に、彼が関わっているのは疑いがない。だがそれはビングリー嬢が中心となって企み、仕組んでいるのだといつも思っていた。彼は虚栄心を満足させるためにそういうことをしたのではないだろうが、それでも彼が原因であり、彼の高慢さと気まぐれのせいでジェインは苦しんだし、今も苦しみ続けているのだ。この世で最も愛情深く優しい心の持ち主の、幸福になれる望みをなにもかも台無しにしたのだ。そして彼がもたらした不幸は、いつまで続くか分からないのだ。

「その女性に、なにか非常に強力な反対すべき理由があったようです」とフィッツウィリアム大佐は言っていた。その非常に強力な反対すべき理由とかいうのもおそらく、叔父のひとりが田舎弁護士で、もうひとりの叔父はロンドンで商人をしていることなのだろう。

「ジェイン自身には、反対する理由なんて何もないじゃないの!」エリザベスは叫んだ。「あんなに愛らしくて善良なお姉さまが! 素晴らしく聡明だし、人柄は洗練されているし、振る舞いは魅力的だし。お父さまだって、風変わりなところは少しあるけれど、ダーシーさんも見くびることができないほどの能力を持っているし、はるかに立派な態度をしているわ」母親のことを考えると少し自信がなくなってしまったが、それでもその点における反対の根拠は、ダーシー氏にとって決定的な重要性を持つとはどうしても思えなかった。ダーシー氏の自尊心は、友人の親類の分別が欠けていることよりも、その地位が低いことによってさらに深い傷を受けるのだとエリザベスは確信していた。ついにはこう結論付けた。彼の行動は、ひとつは最も悪質な種類の自尊心によって、もうひとつはビングリー氏を妹のダーシー嬢にあてがおうという望みによって支配されていたのだ。

 このことを考えていると心が乱れ涙があふれ出て、頭痛がしてきた。夜になるとますます痛みがひどくなってきたので、ダーシー氏に会いたくない気持ちも相まって、コリンズ夫妻とロージングズへお茶を飲みに訪問することになっていたが、やめにした。エリザベスが本当に気分が悪そうにしているのを見て、コリンズ夫人は同行を無理強いしなかった。夫にもそうさせないように努めたが、コリンズ氏は不安を隠すことができず、エリザベスが家に残っていることをキャサリン令夫人はご不快に思われるのではないか、としきりに心配していた。

୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

最後まで読んでいただきありがとうございました。
ご感想などもお待ちしています。

୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

    ご感想・ご質問等あればどうぞ↓(公開されません)
    お名前(任意)
    メールアドレス(任意・有の場合返信します)
    メッセージ

    ◎高慢と偏見
    フォローする
    タイトルとURLをコピーしました